ぼんぼりの雅
全国的にも有名な静岡県の「駿河雛道具」。その中でも、雪洞ではシェアトップなのがこの「ぼんぼりの雅」社長でもある筑地義仁師。雪洞一筋に研究と研鑚を重ね、今ではその地位を揺るぎ無い物としています。筑地師の温和な人柄から工房内は常に和やかな雰囲気で、正確で細かい作業が求められる雪洞の製作には絶好の環境となっています。 洗練されたデザインと、古典的な伝統を、高次元で融合させたその作品は、すでにそれ単体でも素晴らしい装飾品として完成されていると言っても良いでしょう。「お雛様の良き相方となって、末永くお嬢様の道先を明るく照らして行けたら良いですね。」そう優しく語る筑地師の言葉通り、工房内では手馴れた手つきで職方さん達が、伝統工芸の雪洞に愛情を注ぎながら仕上ていました。
雪洞(ぼんぼり)とは、ローソクの火が風で消されないように、紙や布で作った火袋を付けた手燭や燭台(昔の照明器具)の事を指します。おひな様に雪洞が使われたのは江戸時代になってからといわれますが、おひな様には無くてはならない装飾品として、たいがい親王様の両脇に飾っています。雪洞にはいくつかの種類や形がありますが、一般的なのは一本足で火袋がみかん形のものでしょう。他に三本足の岐阜の吉野雪洞や、火袋が角型で六角形や八角形の朝顔型の物もあります。戦後電気付きの雪洞が主流になってきましたが、小型コンパクト化の流れからあまり電気付にはこだわらない方が増えてきているようです。
最初に型に応じて、火袋・棒・台座・骨組みを作成し、それを集めて一つの形に仕上げます。下塗り、上塗りと塗り加工を施し、表面を滑らかにして置きます。ここで、棒の中に電機の部品を取り付けておきます。次に火袋をその形に仕上ます。みかん型や丸型の場合、上部が狭いので特に注意が必要です。ねじれやゆがみが無いよう均一につなげ、仕上げていきます。
絹布の上に装飾用の絵を前もって描いておきます。一般的な絵としては「桜」や「梅」の図柄が多いですが、山水や霞の図など、色々な 物があります。色の使い方もそれぞれに特徴があり、最近は淡い色調が好まれるようです。全体的に和紙を貼ったタイプもありますが、絹布の方が丈夫なようです。あまり厚い布では光が通らず暗い雰囲気になってしまいますが、薄い布では明るすぎて雪洞本来のほんのり」とした感じが出せません。絵柄も強調しすぎるとただ派手になってしまいますので、適度な上品さが求められる部分です。
火袋の骨組みに、裏から筆で糊を塗り込んでいきます。付け過ぎてははみ出てしまい見栄えが良くありませんので、適度な調整をしながら細心の注意をしながら塗り込みます。貼りつける絹布ではなく、骨組みの方に糊を付ける事で、はみ出てしまったり糊が足りなかったりする事を防ぎます。いくつかまとめて糊付けをし、一番糊の吸着率の高い頃を見計らって絹布を貼りつけます。
火袋用に絵を描いた絹布と、絵を描いていない部分の絹布を、本体骨組みの骨と骨とで仕切られた形に切り取ります。短冊状に切り取ったその絹布を、糊が付いた骨組みに後ろから貼りつけて行きます。絵柄の様子や張りぐあいを確認しながらよじれが出ないように貼り込んでいきます。雪洞のデザインにもよりますが、前側には絵柄が出るように、後ろ側には絵柄の無い絹布を貼り付けていきます。みかん形の丸いタイプの方が貼り付けは難しく、最後の一枚はピンセットや特殊な工具を使用して貼り付けます。
電気で電球を灯すタイプの雪洞の場合、ここで電気配線を結線します。電気コードを雪洞本体の棒を通し、2ケセットの雪洞に配線して繋げます。タイプにより異なりますが、一つずつコンセントが有るものと、二つを一つに繋いでコンセントを付けるものがあります。配線作業がいらない電池式のものもありますが、消費電力の関係で長時間点灯が出来ないようです。ただ、配線作業がいらない分だけ取り扱いが楽な利点があります。
電気点灯検査の後、一つずつ検品の上箱に詰めていきます。全て手作業で行われているので細かい仕様に対応出来るのですが、大量生産出来ないのがつらい所です。最近は小さい物が良く売れるようになってきており、雪洞もより一層の小型化が求められております。大きく開く角形や朝顔形よりも、少ないスペースや収納場所でも飾れる丸形やみかん形が人気があり、その素材も色々な物が好まれてきています。