女流絵師 磯貝師
今回お話をお伺いしたのは女流絵師の「磯貝」師。江戸時代からの人形処・埼玉は岩槻にお住まいの、チャッキっとしたベテランです。一回に50枚づつ、一日に換算すると20枚くらいの割合で仕上ていきます。 従事した絵師に、「そそっかしいって怒られたこともあるんですよ。」と笑ってお話された磯貝師ですが、その作業は沈着冷静。「静かに一人で作業できるのが好きなんです。」妥協する事が許されない仕事なだけに、その手先に対する集中力はやはり職人さんでした。
お雛様には無くてはならない、「扇」のメイン工程である「絵描き」の製作です。お姫様が両手で体の前にかざす様に待ちます。絵柄は基本的にはおめでたい松竹梅に鶴亀ですが、絵柄にも流行があり、現在作られている絵柄が一番細かく難しい絵柄になります。
経木(きょうぎ)という薄く削った木の板を、正式には奇数、現在の主流は7枚ほど重ね合わせて原型を作ります。一番手前の板が「ノ」の字を描く形になるように下側をかしめ、上側には開いた形を考えながら飾り紐を通します。
出来あがった扇におめでたい絵を描きます。基本色は13種、水性の塗料を、微妙な調合で色作りします。昔は膠(にかわ)で調合していましたが、生木にのり難いので今より大変だったようです。
絵を描く際、それぞれ職人さんによって工程が違う場合がありますが、基本的にはまず松を描き、その後、紺・紫・赤・黄〜と続きます。全て下書きはせず、それぞれの色ごとに仕上ていきます。
絵描きのポイントとして雲の描き入れが重要な部分になります。下地は木なのでガサガサになりやすく、また、迷いがあると筆に現れてしまいます。
最後の方の工程になりますが、金や銀の描き入れが一番気を使います。金という塗料は生き物なので、ブロンズ液の混ぜ方やその日の天候等によって光り方が変わってきてしまいます。長年の経験と勘が生きる場面です。
同じように見えて、地方や風習・お人形の種類によっていろいろなバージョンがあります。関東風は扇が閉じないタイプが多く、その描き入れ方もひごやヘラで描き込む方法がとられます。関西風(京風)としては扇がたためる物が主流で、筆で細かく描き入れる方法です。どちらも同じように手間のかかる職人さんの手作りです。