熊倉人形 熊倉基安師
岩槻市諏訪に工房を構える熊倉基安師。何本もの面相筆を自在に操るその作業は、まさに神業です。長きに渡る修練の末に得た伝統工芸技術は、広く全国に名が知れ渡り、平成5年には埼玉県知事に優秀技能者として表彰されました。お雛様の優しさ、かわいさにこだわり、毎年のように新作をヒットさせています。
また、天神様や鐘馗様、創作人形にも定評があり、今年もジュエリー玉櫛シリーズを発表するなど、常に意欲的な製作活動をしています。
桐のおがくずを練り固めたものや石膏で型取った土台を「生地」と呼び、ガラス の目を張ります。 目切り(切り出しと呼ばれる刃物で、目を開けてバリを取り除く作業)をしてか ら、胡紛(牡蠣や蛤の貝殻をつぶし、粉にした物)とにかわを調合し、生地に幾 重にも塗り重ねます。まったくの白塗りの坊主頭の状態です。
目さらいと言って目にかかった胡紛を切りだしで取り除き、さらに目掃除と言って竹櫛を用い目の細部に入り込んだ胡紛を取り除きます。目の上や頬にスリコミ (アイシャドウ等のようなお化粧)をし、エボシを付けます。さらに少し固めの布地で2度にわたって磨き上げ艶を出します。マツゲや口紅を入れ、舌や歯等、順次筆を入れていきます。
毛描きと言って、髪の生え際の部分に筆で入念に彩色します。さらに面相と言って眉毛を書き込みます。お雛様の表情を決める最も重要な工程です。
顔の彩色が完了した後、髪付けと言って、あらかじめ生地の頭部に彫ってある「毛掘り」と言う溝に、髪の毛を植え、櫛でとかしながら髪を結い上げる作業をします。特にお姫様は、オスベラと言う髪型を頭に乗せ髪を結い上げる、いわゆる「おすべらかし」と呼ばれる髪付けの作業をします。
ひとつひとつの細かい作業を、熟練した職人の入念な手作業によって仕上ていきます。顔の良さで人形の価値も変わってしまうと言ってもいいほど面相は重要なものです。たくさんの種類があり、好みもさまざまですが、どれも職人の完全な手作業によって出来あがるのです。