秀光人形工房 (ひな人形、五月人形、日本人形)

女流絵師 大木師

埼玉県羽生市にお住まいの大木師は、この道大ベテランの35年のキャリア。親の代から造っている玉官作りを、今も元気で毎日こなしていらっしゃいます。「娘時代は墨汁が手について取れなくなるんじゃないかって・・・、でも糊が配合してあるので意外と簡単に取れるんですよ。」そう優しく語る大木師の仕事場には、元気なお孫さんの写真がたくさん飾ってありました。

ここでは業界で「玉官」と呼ばれている「お殿様の烏帽子(えぼし)」の部分の製作現場を紹介します。いわゆる正装の時の帽子に当たる部分ですが、平安の雅な時代から使用されているそうです。とんがった部分に左右に突き出るように棒が出ており、そこに紐をかけてあごに結んで留めます。意外と見落とされがちな部品ですが、無いと意外と違和感がある部分です。

素材や使用目的によって作製方法もさまざまですが、ここでは昔ながらの和紙を使った方法で製造しています。和紙を溶かしたものを型に流す、もしくは和紙をある程度の型に貼って、それを七輪の炭であぶりながら乾燥させて型から抜きます。

塗料は胡粉と墨で下地を作ります。昔はしょうふのりを混ぜましたが、今では特殊なボンド糊を混ぜます。しょうふ糊はなかなか乾かないため手離れが悪く、出来にもばらつきが出るため、今ではボンド糊を使って品質を安定させています。墨の量によって、色や艶に差が出てしまうので、その時の気温や湿度によって微妙に調合します。

均一にたれやまだらが無い様にきれいに塗り上げます。ささっと手早く塗りますが、慣れと経験で調合した塗料のおかげで手早く塗れるのです。リズム良く塗って、均一に仕上ます。

塗料が乾ききる前に、紗(しゃ)と呼ばれる薄い網のようなものを巻きます。紗張り仕上げと言い、高級な仕様とされています。接着剤は使わずに、墨の力でくっつけます。

曲線だらけの烏帽子の形に、しわが寄らないようきれいに貼りつけて形を整えます。指で撫でるように優しく押さえていきます。破れたり編み目が揃わなくならないように、慎重にかつ手早く巻きつけます。

余分な紗やがたつきを切り整えてふちを巻き取ります。はさみはすでにその形に加工してあって、先がきれいなカーブを描いています。慣れていて使い込んだ物でないとなかなかすばやく作業できず、このはさみ専門の砥ぎ屋さんに手入れをしてもらっているほどのはさみなのです。先が丸く曲がっている為、普通では砥げないそうです。

仕上にきれいに形を整え、必要に応じて裏も塗ることもあります。一日80〜100 個位の仕上量ですが、その日の天候にもよります。